バーバラ:ヴァイン『長い夜の果てに』

 

 

最近の私は、ルース・レンデル(バーバラ・ヴァイン)にご執心である。そもそものきっかけは札幌読書会で「絶版だけれど『ロウフィールド館の惨劇』をやります!」と言っていたことだったと思うが(もちろん、日本の端から端なので、そんな読書会に参加できるわけではない…)、『ソロモンの絨毯』は所持しているし、前々から気になっていた作家ではあった。

何冊か手にとって、 弱い人間も底の浅い人物も、一般的には「異常」と思われる人物でさえ、なぜそういうふるまいに及ぶに至ったか(もしくは、なぜそんな合理的ではないことをするのか)が克明に描かれていて、その緻密さに圧倒された。

そして、今回読んだのは腐女子方面にも人気のこの作品。

長い夜の果てに (扶桑社ミステリー)

長い夜の果てに (扶桑社ミステリー)

 

田舎町でひっそりと暮らすティムに脅しととれる手紙が舞い込み、そこから彼の過去への回顧録がはじまる。人を惹きつけずにはいられない美貌の持ち主であった彼は、大学時代適当な女の子とつきあい、それがある日突然古生物学者の男にひとめ惚れして、女の子をあっさりと棄ててしまう。

『愛している』という告白に残酷にならずに答えるには、二種類の返事しかない。一つはもちろん、『ぼくも愛しているよ』である。わたしが与えたのはもう一方の返事だった。

「わかっているよ」と言ったのである。

一方で、一目ぼれした男(イヴォー)に対しては、なんと自分から「愛しています」と2回も(!)言ってしまうのだった。

しかし、イヴォーの方もティムにメロメロになるや、ティムはまたもや辟易してきて、今度はイヴォーについていった旅先で出会った女性(イサベル)に激しく惹かれてしまう。彼女に男の恋人がいることを露見してしまっては困る。だが、あくまでイヴォーは自分を離してはくれない……。苦境と偶然が重なり、ティムはイヴォーに対して恐ろしい仕打ちをすることになるのだ。

後半にいくつかの仕掛けがあり、最後は「えっ、あの人が……」という人物が語り手となって物語は終わる。レンデル(ヴァイン)作品は、「えっ、あの人が」ということが多いのだが、それは読者をビックリさせたいということではなしに、たまたま焦点が多くあたらなかっただけで、この人物もまた作中で間違いなく生きているのだ、と思わせる点が素晴らしい。

「たまたま焦点があたらなかった」、それすなわちティムにとってはそれほど重要な人物ではなかったのだということの証左にほかならず、それもまたせつない。